
2025年5月27日
私たちの研究論文がYonago Acta Medicaに掲載されました

私たちの研究論文が、『Yonago Acta Medica』に掲載されました。
論文は、こちらからどなたでも読めます。
この研究の目的は何だったか
ひきこもりは、私たち誰も がそうなる可能性のある状態です。これまで、ひきこもりについての研究は、当事者や家族を対象としたものがほとんどであり、ひきこもりの人が穏やかに暮らすために地域社会はどうあればよいかに注目した研究はほとんどありませんでした。
近年、社会的排除という言葉が注目されています。これは、個人の社会的交流や社会参加が阻まれ、社会の様々な場面で人々から排除される状態を指します。ひきこもりの人に対する社会的排除に関連する要因を見出すことができれば、社会的排除を防ぎ彼ら彼女らが暮らしやすい地域社会をつくり出すために大切なヒントを得ることができる。私たちは、そう考えました。そこでこの研究では、地域住民を対象としひきこもりの人への社会的排除に関連する心理的要因を検討することを目的としました。
社会的排除に関連する心理的要因とは
調査は、鳥取県の協力を得て、電子アンケートにて365人から回答を得ました。「近所にひきこもりの人が暮らしている場合、あなたの考えに近いのは次のどちらです か」との問いに、「本人からサポートを求められたら、できる範囲で力を届けたい」(排除なし)または「本人からサポートを求められても、あまり関わりたくない」(排除あり)の二択で回答を求め、これを社会的排除の指標としました。
その結果、排除なしは297人(81.4%)、排除ありは68人(18.6%)でした。社会的排除に強く関連する心理的要因として、次の5つが見出されました。
価値観が違う人とはできるだけ関わりたくないと思う人は、そう思わない人よりも排除に陥る可能性が3.6倍増加した。
ひきこもりは家庭の問題なので他人があまり踏み込まないほうがよいと思う人は、そう思わない人よりも排除に陥る可能性が2.2倍増加した。
今の社会は失敗したり過ちを犯したりしてもやり直すことができると思う人は、そう思わない人よりも排除に陥る可能性が0.5倍低下した。
ひきこもりの人と似たところが自分にもあると思う人は、そう思わない人よりも排除に陥る可能性が0.4倍低下した。
ひきこもりの人と趣味などの活動を一緒に楽しむことができると思う人は、そう思わない人よりも排除に陥る可能性が0.3倍低下した。
私たちの社会は、まだまだ捨てたものではない
今回の調査から、「本人からサポートを求められたら、できる範囲で力を届けたい」と考える人は地域社会に多くいることが示されました。私たちの社会は「助けて」と声をあげることが難しいと思われがちですが、この結果は困難を抱えた時に助けを求めてもよいことを勇気づける結果となりました。
一方、異なる価値観を持つ人との関わ りを拒む態度と、ひきこもりは家族の問題であるという認識が、ひきこもりの人の社会的排除のリスク要因であることが示されました。他方、失敗や過ちを犯してもやり直すことができるという考え、ひきこもりの人と似たところが自分にもあるという気づき、ひきこもりの人と趣味などの活動を一緒に楽しむことができるという態度は、ひきこもりの人の社会的排除を抑制する保護要因であることが示されました。
リスク要因を減らし、保護要因を増やす。そうした地域社会に向けたチャレンジを、私たちは今後進めていきたいと考えています。
この研究は、公益財団法人トヨタ財団 2023年度研究助成プログラムによる助成を受けて実施しました(D23-R-0045)。調査に協力してくださいました鳥取県及び県民の皆様に、心より感謝申し上げます。
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